【労務ワンポイントコラム】 3ページ 労働基準法上の“使用者”とは、誰のことを指す? ―直接雇用・出向・派遣の違い―

労働基準法には、使用者が遵守すべき規範が定められていますが、この“使用者”とは具体的に誰を指す言葉なのでしょうか? 今回は、直接雇用・出向・派遣の場合における使用者や労働契約の関係性について、判例も交えながら解説します。

使用者=事業主ではない!?

 使用者というと、事業主や経営者を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、労働基準法における“使用者”とは『事業主または事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者』とされています(同法10条)。つまり、事業主だけを指す言葉ではないのです。
 “労働者に関する事項”には、労働条件の決定・労務管理・業務における指揮命令などが含まれます。そのため、役員や部長、課長などの役職に囚われることなく、労働基準法各条の義務について“実質的に一定の権限を与えられているか否か”によって、使用者に該当するか否かが判断されるのです。つまり、たとえ役職についていたとしても、権限が与えられておらず、単に上司の命令の伝達者にすぎない場合は、使用者と見なされません(昭22.9.13発基17号)。

出向や派遣の場合の“使用者”とは?

 なお、労働基準法は本来、労働者と労働契約関係にある事業に適用されます。そのため、労働者と使用者に“労働契約”があるか否かが重要なポイントとなるのです。では、出向や派遣の場合、誰が使用者となり、どこに労働契約が発生するのでしょうか?
 まず、出向には“在籍型出向”と“移籍型出向”があります。在籍型出向の場合は、出向元・出向先の両方に労働者との労働契約関係があるため、出向元・出向先双方に使用者責任が発生します。一方、移籍型出向は出向元との労働契約を終了し、出向先のみと労働契約を締結するため、出向先の使用者が労働基準法上の使用者責任を負うことになります。また、派遣社員の場合は、派遣先が業務の指揮命令を行いますが、原則として雇用している派遣元に使用者責任が課せられます。

黙示の労働契約が成立する要件とは?

 なお、使用者と労働者で合意があれば、労働契約自体は口頭でも成立します。そこで、黙示の労働契約(口頭での労働契約)について労働契約の所在が争われた判例(『サガテレビ事件』/福岡高裁昭和58.6.7)から、使用者の定義について考えていきましょう。

【事件の概要】
 印刷会社であるX社と、テレビ放送業を営むY社は業務委託契約を締結していました。そして、X社に雇用されたAさんたちは、採用時からこのY社に派遣され、Y社の指揮監督下で印刷業務に従事していました。しかしその後、X社とY社の業務委託契約が解除されたことに伴い、X社はAさんらを解雇しました。そこでAさんらはY社と雇用契約関係が成立しており、Aさんらの使用者はY社だとして、従業員の地位を保護するよう請求訴訟を提起したのです。
【判決の概要】
『使用従属関係があるからといって、直ちに労働契約関係が成立するとはいえず、少なくとも当事者間の黙示の意思の合致がなければ成立しない』とし、“黙示の労働契約が成立するための要件”として以下の項目を挙げました。
(1)外形上、派遣先企業の正社員とほぼ同様の労務を提供している
(2)派遣先企業との間に、事実上の使用従属関係がある
(3)派遣元企業が企業として独自性なく、または派遣先企業の代行機関と同視できるなど、その存在が形式的名目的
(4)派遣先企業が、派遣労働者の賃金額・その他の労働条件を決定している
 この要件に即して事例を見てみると、
(1)AさんらはY社の従業員と同じ仕事をしていたため、要件を満たしている
(2)AさんらとY社に、使用従属関係が認められるため、要件を満たしている
(3)X社はY社から資本的・人的に独立した会社であるため、要件を満たさない
(4)業務委託料は、派遣労働者の人数・労働時間量にかかわらず一定額。そのため、Y社がAさんらの賃金を決定していたとはいえない。また、採用・その他の労働条件も派遣元であるX社が決定していたため、要件を満たさない つまり(1)(2)は要件を満たすものの、(3)(4)の要件を満たさないため、『AさんらとY社に、黙示の労働契約は認められない』との判決がなされました。
 なお、使用者性の判断は、ほとんど直接雇用といえる程度の関係がないと肯定されません。しかし、資本関係のある会社の派遣社員を使用したり、派遣会社に追加料金を支払って派遣社員に長時間の残業をさせたりすることは避けた方が無難でしょう。
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